『つながった世界ー僕のじゃがたら物語』を読んでみた

ここのところ昔に聴いていた音楽を掘り返していたらある人物の名前に引っかかった。

 
「OTO」さん。
 
OTOさんは1980年代に活動していたファンク・ロックバンド「じゃがたら」のギタリストとして有名な方で、かつてはテレビのオーディション番組で審査員を務めていたりメディア露出が多かったので色んなところでお目にかかっていた。
 
しかし「じゃがたら」は伝説的なバンドで当時から名前はもちろん知ってはいながらも、僕自身はなぜか縁がなく音楽には触れてこなかった。
 
そして今年3月、かつてじゃがたらがレギュラー出演していたライブイベント『東京ソイソース』が約30年ぶりに開催され、僕はその現場にいた。
 
「JAGATARA2020」として再集結したその中にOTOさんがいた。その時は「あー、OTOさん久しぶりに見たなぁ」くらいの感想だった。それが最近になってOTOさんについて調べて見たらウィキペディアには個別項目はなく、近年どのような活動をしているのかが分からない。
 
そうしているうちに、OTOさんが本を出しているのを知った。
 
『つながった世界ー僕のじゃがたら物語』OTO+こだまたけひろ(Pヴァイン)
つながった世界─僕のじゃがたら物語 (ele-king books)

つながった世界─僕のじゃがたら物語 (ele-king books)

  • 作者:OTO,こだま たけひろ
  • 出版社/メーカー: Pヴァイン
  • 発売日: 2014/11/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

OTOさんの生い立ちからじゃがたら加入、そして解散後から現在に至るまでをつぶさに綴った半生記となっている。
先にも書いた通り僕はじゃがたらに関してはほとんど知識がないのであくまでOTOさんの視点で語られたこの本を読んだだけでじゃがたらを知った事には到底ならないと思うけど、そんな僕がどうしてOTOさんを当時よく見ていたかの理由は分かった。
 
既にライブで人気を博していたじゃがたらに後から加入したOTOさん。既存メンバーにはないバンド観を持ち、じゃがたらのためにと新機軸を様々打ち出していく事の功罪と、それによるフロントマン・江戸アケミとの間に生じた軋轢。
ここが門外漢にはやすやすと語れないところなんじゃないかと思う。
 
メンバー全員が「じゃがたらとして」生活するためにはコマーシャリズムもやむなし、としてセールスマン的な立場を買って出たOTOさんに対し大衆に迎合することを嫌ったアケミさん。アケミさんよりOTOさんの方が露出が多かったのは自分が広告塔となりバンドを知ってもらう目的があったのだ。
よく耳にする、ロックバンドでは常に付きまとってくる問題はじゃがたらも例外ではなかった。夢or金!
 
読んでいていいか悪いかは別としても揉めるのは仕方ないと思う部分もあるし、今ではOTOさん自身も当時の自分を客観視出来ているのが伝わってくるものの、余りに愚直で不器用に活動してきた氏の口述を忠実に書き起こしたような文章は単なる思い出話というには痛みのようなものも感じる。
 
僕がこの本を読もうと思った理由は、実はじゃがたら、というよりOTOさんの「その後」を知りたかったから。
 
自分自身長年勤めていた会社を辞めて先の見えない生活に入ったこともあり、色んな人のセカンドキャリアにはどうしても興味が湧いてしまう。
 
OTOさんはアケミさん亡き後じゃがたらも解散、他バンドでの活動を経て「9.11」をきっかけにしてさらに10年後の「3.11」も加わって人生観が変化、どんどん自然に寄り添った生活スタイルにシフトして行き、農園での自給自足へとたどり着く。
 
農園に入ってからも不器用さはそのままながら良き伴侶を得て時折音楽活動(サヨコオトナラ)をしつつも「あえてギターを弾かない」生活を送っているという。想像していなかった変貌ぶりには驚いたけど、じゃがたらではセールスマン的役割を担っていたのが今では自給自足生活というのがまた諸行無常っぷり。
 
しかし「JAGATARA2020」の活動も本格化しているのでまたしばらくはバンドマンに戻るOTOさん。
音楽活動にしろ農業にしろ、なりゆきも作用しているのかも知れないけど思い立った時の行動力があってまっしぐらにのめり込むことができる人なんだと思った。ある意味羨ましくもあり見習いたいところではある。