続「アジアン・ビート」から「濱マイク」〜あの頃、僕は永瀬正敏になりたかった

前回に続き、『アジアン・ビート』について。

 
「濱マイク」シリーズの舞台となっている横浜の黄金町。その妖しげな雰囲気が作品にとてもマッチしていて、物語の世界観作りに大きく作用している。
 
出てくる建物やお店なども横浜という地の歴史や風土を感じさせるものばかりで、なんとも独特だ。
 
撮影エリアが公表されているせいか、ネット上には「濱マイク」のロケ地を特定するサイトが多く見られる。作品がいかに愛されているかが伺えて何ともワクワク。
作り手側も実在の商店や施設などをバンバンそのまま登場させ、かなり意図的に街を映しだそうとしている気さえする。
 
僕は前回書いた通り映画「濱マイク」三部作を当時、横浜日劇まで観に行った。しかし、それ以降横浜には幾度となく行くものの、黄金町に足を運ぶことはなかった。
そして最近、永瀬正敏氏が主演した映画『ファンシー』が「シネマ・ジャック&ベティ」で上映されるというので観に行った。2020年なので、黄金町に来るのは実に24年ぶり!
ジャック&ベティといえば日劇の向かいにある映画館で、「濱マイク」を観れば何度も映る。
 
いつしか映画をあまり観なくなっていたこともあり横浜日劇が取り壊されていたのもだいぶ後になってから知ったし、24年も前なので町の細部までは覚えていないものの、やはり新陳代謝は進んでいるようだった。ビルの取り壊しも実際行われていたし、当時入った中華料理屋?も見当たらず。あればまた行こうと思っていたのに。
 
そして色んな人がロケ地として紹介している場所も、お店などはその後閉店してしまっているところも多いようで、徐々に巡礼出来る“聖地”は失われつつある。
 
軒を連ねていた売春宿は一掃され、アートの街として生まれ変わった黄金町。それでもやっぱりよそ者から見ればまだまだ独特のものを感じるし、個人的にそれは横浜全体に感じる魅力でもある。
 
そして、『アジアン・ビート』である。(前回と同じ展開)
 
「濱マイク」が横浜黄金町であるのに対して、『アジアン・ビート』日本篇『アイ・ラブ・ニッポン』は同じく神奈川県の主要都市・川崎市は溝ノ口が主要ロケ地だ。
 
エンドロールに撮影協力として「溝ノ口の人々」と出て来るので分かったのだが、僕はこれで溝ノ口という地名を初めて知った。
 
実は「ロケ地巡り=聖地巡礼」という概念がまだなかった頃、作品が好きすぎるあまり行き方を調べて溝ノ口まで行ったことがある。
しかしロケ地探索というつもりはなく、どんな所か行ってみたかった程度なので、何も作品に近いものには触れることなく帰って来た。
 
最近になって「濱マイク」の配信が始まったのと並行して『アイ・ラブ・ニッポン』もやっぱ好きだなぁ〜、なんて観返していると、こちらのロケ地もなかなか味があっていいなぁと思い始めた。
でも、「濱マイク」よりもさらに古い作品だし、こちらは特に溝ノ口という場所自体を推し出している訳でもないからどうなんだろう?と思いつつ、すっかり気になってしまった僕はまずエンドロールから当たってみた。
 
「溝ノ口の人々」同様、いくつか書かれた撮影協力の項目にある企業名や団体名などをかたっぱしから検索。現代にはネットがある。
唯一ここで分かったのは「(株)十文字商店」が、現存するスーパーマーケットであるという事。
グーグルマップで検索するとストリートビューに映し出されたのは、オープニングでトキオがバナナを買うスーパーではないか!!
これには興奮を抑えきれず、さらに調べる意欲が湧いた。
 
そして本編を見ていて気になったのが、トキオが事務所を飛び出して墓地に向かうシーン。
三叉路の間にある「ハンコ屋」さんが映る。
どう見ても作り物ではなかったので、ハンコ屋さんを検索。すると・・・出て来た。これまたストリートビューで。グーグルマップ恐るべし。
改築されてはいるが、現存していた。凄い!!
 
しかし、トキオが老人と麻雀に勤しむお寺の様な所は外観が映らないし、トキオがバナナとテレサと三人でお酒を飲む&最後にバナナが自殺する墓場(同じ場所?)や、ヒロ・アライさん演じる右翼のスミオがミスター・ゴンザレスと歩いていた、外国人娼婦が立ちんぼしている企業の巨大看板が並ぶ道路など、特定したい場所は数々あるのにいくら調べても分からなかった。
現存しているかどうかも不明だし、そもそも溝ノ口かどうかも分からない。
(追記:改めて本編を見てみたら、最後に出てくる墓地は事件を報じるニュースで石井苗子演じるキャスターが「東京板橋区の城北墓地」と言ってますね。てことは物語の舞台は溝ノ口ではなく板橋ということか・・・。ちなみに名称の一致する墓地は無い模様)
 
あと、トキオが住んでいるアパート!
一階に併設されている、大家さん経営の焼肉屋さんはどうか分からないけど、向かいに映るコインシャワーは実在の会社のものなのは判明。だがネット上では会社に関する情報は得られず。ネット普及以前に消滅してしまったのか。
 
それでもスーパーとハンコ屋さんが分かっただけでも嬉しい。
 
という訳で、コロナ以降すっかり遠出をしなくなっていた重い腰を上げ、行って来ました、溝ノ口!
 
特定出来たのがほんのわずかなので、プチ聖地巡礼である。
 
まずはオープニング、溝ノ口の街を歩くトキオ。
 
ここで足を止めるのが先に書いた、スーパー「十文字商店」。
 
ここで問題が。
 
お店の外観をじっくり写真に撮ろうとスマホを構えるも、店の人や周囲の視線が気になってとってもやりづらい!
外国では全然気にしないのになぁ。日本だとどうしても気が引けてしまう。
よって、スーパーの外観が分かりづらい写真となってしまった。。

左側のお店でトキオは友達のアジア人からバナナを2房買わされる。
 
その後にバナナを両手に持ったトキオが歩くのは、溝の口駅西口商店街。
ここが一番当時の雰囲気を維持している。

 

そして、トキオが働く「東和興信所&極東モデルクラブ」のある長屋の様な建物の入り口にある、例のハンコ屋さんだ。
実際に現地を歩いてみると、この三箇所は近くにあることが分かった。順路としてはちょっと無理があるけどトキオが事務所に向かうためにここを歩いたんだな、というのが感じられてこれが聖地巡礼か!と感動。

ただ、このハンコ屋さんに関しては映像と見比べると同じ場所とは思えない・・・。
改築されてはいるものの、あんな特徴的で店舗としては使い勝手も決して良くはなさそうに見える三角の建物は同じ場所だからこそだろうし、だから同じ店だと確信が持てた訳だけど、すぐ横が高架下なのに、映画ではそれらしきものが確認出来ない。

東急田園都市線が高架線になったのは映画よりも前らしいのに・・・?
映像では工事用の柵が建てられていて、何もない様に見えるのだ。これはもう店の人に聞くしかないけど、そんなことをしても変人扱いされるだけだ。
 
そう、この「工事用の柵」。
 
改めて調べてみると、1990年代あたりから溝ノ口は再開発が進み、それまでの戦後の闇市の名残がある街並みは一新されたとのこと。
先に触れた西口商店街はその一端で、周辺は確かに古びた建物が多くていい味を出していたが、反対側の駅前一帯は新しさばかりが感じられた。
 
ウィキペディアによると1989年に東急溝の口駅の改良工事が始まり、周囲の商業化も進んだ旨が書かれているので、ハンコ屋さんの横はもしかしたらその工事の最中だったのかもしれない。
この高架線も当時に今の形になったのか・・・?
その並びにある長屋もかなり年季が入っているのだが、今では駐輪場になっていた。

ここに「東和興信所&(ア〜ンド)極東モデルクラブ」があったことになる。
 
立ち寄った丸井の通路ではちょうど溝ノ口の街の歴史が写真と共に展示されていた。
 
もしかしたら『アイ・ラブ・ニッポン』のすぐ後にでも来ていたらあの風景が残っていたかも知れない。
しかし、行ったところで写真なんかも撮らなかっただろうなぁ。黄金町に行った時も「ここが撮影場所かー」と思ったけど写真なんか撮ってない。今思えば横浜日劇は撮っておきたかったが、スマホはおろかケータイすらまだ普及前。
現在の映画、ドラマ、アニメファンがしているロケ地巡礼は簡単に撮影が出来る環境だから広まった文化なのだろうなぁ。
 
ちなみに私が溝ノ口に向かう時、電車の中では永瀬正敏氏のアルバム『CONEY ISLAND JELLYFISH』を聴いてました。名盤。

 

CONEY ISLAND JELLYFISH

CONEY ISLAND JELLYFISH

  • アーティスト:永瀬正敏
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