30年の時を経て『黑名單工作室』

以前も少し触れましたが台湾ポップス、とりわけ“台語”ポップスを語る上で避けて通れないのが『黑名單工作室』。

 
メンバーとされているのはレコード会社のプロデューサー、ディレクターだった王明輝、チェロ奏者の陳主惠、そしてエンジニアのアメリカ人キース・スチュアートの三人ですが、ゲストボーカルやミュージシャンを迎えているため、それを含めたいわばプロジェクトの様な体をなしています。
 

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1989年にアルバム『抓狂歌』を発表。
台湾ではこの二年前まで38年間に渡って戒厳令が敷かれ、大陸からやって来た国民党政府による國語推進政策のもと、地元の言葉であった台湾語による表現活動が制限されていました。
そのため台湾語の歌といえば民謡や演歌の様な古いものとして扱われることに。
 
しかし戒厳令に続いて言論統制政策も解かれ民主化が進んでいく中、黑名單工作室は堰を切ったように台湾語で政治や社会を風刺し台湾人としてのアイデンティティを叫び、『抓狂歌』はその後の台湾音楽界に大きな影響を与えたアルバムであるとされています。
 
それを改めて証明するかの様になんと2019年、台湾のグラミー賞と言われる金曲獎で特別貢獻獎を受賞!30年越しは凄い。
賞の授与ではプレゼンターから「香港加油」から始まりベルリンの壁崩壊や天安門事件という言葉も出たという事もあり、台湾の民主化と発展、そして高まる独立への機運と、今の世相に図らずもマッチしたという事か。
 
ただ彼らはステージ上で何も語らず、黑名單工作室に関わったミュージシャン等の名前が書かれたボードを一枚一枚掲げ、最後に“我在亞洲  我反美帝(私はアジアにいる。アメリカ帝国に反対する)”と書かれた横断幕を掲げただけでした。
客席は大喝采!めちゃめちゃクール。
 
音楽的には上記の様な背景とは裏腹にあくまでポップス。打ち込みをベースとしたラップが目立つ一方、陳明章が朗々と歌い上げる民謡やフォーク色が強いバラード曲など振れ幅が大きい。
 
それにしてもこの台湾語のラップがとても心地いい。歌っている林暐哲の少しこもった声もいい。
 
 
林暐哲はこの後『Baboo』というバンドを結成しやはり風刺の効いた歌を台湾語で歌っています。これについては別の機会に書きたいと思います。
 
 
そして『抓狂歌』から7年後、2枚目のアルバム『搖籃曲』をリリース。
時間が経っているだけに機材も進化し、だいぶ音が洗練されていて、前作は乾いた感じの打ち込み音だったのがだいぶ今のシンセ音らしくなり、エレクトロ色が一層強くなっています。しかしゲストミュージシャン陣も一新されて、林暐哲、陳明章がいないのは少し残念。
 
それにしても30年も前のアルバムが今また脚光を浴びてどれだけの人、特に若者が興味を持ったのか気になるなぁ。