ここのところ台湾はじめ中華圏でのサイン入り広告のことばかり書いてきましたが、実はそれより前に個人的に気になっていたものがありました。
それは、お店に掲示しているいわゆる“POP”です。POP=Point of purchase、簡単にいうと「半額セール!」「今売れてます!」など販売促進のためのアピールポイントなんかが書いてあるアレです。
台湾に行ったらそれらの写真をいっぱい撮ろうと、行く予定の全くなかった期間もずっと密かその事は頭にありました。
そして昨年の訪台時に書店でまず探したもの。
これです!
POP用のレタリングデザイン書なのですが、これですよ、これ!これぞ僕が求めていたもの。
この書体は「麥克筆字體」というのね。「麥克筆」=マーカーペン、つまりそのままマーカーで書いたような書体という事らしい。
現地でこの踊るような文字を見たことある方も多いはず。
ネットで検索してみると書き方講座みたいなサイトがいっぱい出てきます。やはり定番なのでしょう。
ちなみに日本でも「油性マジック」を冠したフォントを無料配布しているサイトがありました。
なるほどなるほど。
話は戻り、大昔に台湾(もしくは香港)に行った時に脳裏に刷り込まれていたのか、なぜかこの書体が記憶の片隅にずっと残っていたのです。
高校生の頃、スーパーでバイトをしていた時に“POPライター”というPOPを描く担当のおばちゃん(それ以外の時間はフツーにレジ打ちしていた)がいて、「あぁ、この面白い文字ってこうやって手で描いているんだ。そして専門家がやるような仕事なんだな」と知りました。それがあったから何気ないPOPに意識が向いたのかも知れません。
し か し・・・。
結論から言うと、期待していたのに反して想い描いていたようなPOPになかなか出会えない。イメージではお店の入り口や路面に目に付くようにこれでもかと張り出されている風景を想像していたのですが・・・。
並行してハンティングをしている有名人のサイン入り広告とは対照的にPOPは不猟この上ない。
撮った写真を見ると、
こちらなんかはそれっぽい。
しかし内容的に販促という目的ではなく、貼りっぱなしといった趣き。
それでもただの手書き文ではなく一応のデザイン性を感じさせるのが興味深い。描いた人にもちゃんとレタリングの意識があったことが伺えます。
そして別の店のこちらもですが、描かれてからの時間経過を感じずにはいられません。
実感として「麥克筆字體」が大々的に使用されていた時期はすでに過ぎつつあるのでは、という事。
今回写真を撮っていて、現在の主流になってると思ったのはこちら。
黒板式。
チョークで書くものや専用のペンで書くもの。
きっと内容の変動の頻度、そして今っぽさというのもあるのでしょう。
ただ字を書いているだけでレタリングっぽくないものもありますが、確実に手法が取って代わられている感じがします。
今はもうちゃんとしたものを作ろうとしたらパソコンでチャチャっと出来ちゃうし、専門家がやっていたような見栄えのするPOPなんて手間と人件費がかかるだけの非効率なものになってしまったのか・・・。
しかし、色々と見ていくうちに思ったのが、台湾(および中華圏)では手書き文字が好んで使われているという事。
それも「麥克筆字體」のようなデザインされたものよりは本当にそこら辺にあるペンでさらっと書きました的な、まさに肉筆、フリーハンドの文字。
現地で出版されている本の表紙やCDのジャケット、映画のポスターなんかにもかなりの頻度で手書き文字が効果的に使用されているし、広告も然り。


これなんかわざわざ活字と並べる事で絶妙なニュアンスを出しています。
果ては建物の外壁にまで書いちゃう。
街の食堂も。シンプルながらもかなりのオシャレ感。
いいですねぇ。好きな筆跡です。


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そんな台湾の街中に溢れる、デザインされた文字たちをタイポグラフィという視点でコレクションされた、『タイポさんぽ台湾をゆく 路上の文字観察』(藤本健太郎・編著 / 誠文堂新光社)という本があります。
発行が2016年なので賢明な台湾ファンの方ならご存知の方も多いと思われます。
主にお店などの商業施設や商品パッケージに書かれた文字から、案内標識や寺院まで街を歩けば目に入るあらゆる文字のデザインを深く観察、分析された労作にして大傑作です。手書きPOPもちゃんと入っています。
台湾の言語体系から活字の歴史も解説されていてとても勉強になります。
派手派手しく遊び心満載のレタリングのオンパレードで“手書き”に着目している僕とはややベクトルが異なるものの、これを見ても分かるのは本文中の、
「中華文化では昔から漢字を書道的、叙情的観点から見ている」
にもあるように、一文字ごとに意味を持つ漢字オンリーで全てを表記するお国柄から、書体にもニュアンスを込めているんだという事でした。
手書き文字も同様に伝えたい雰囲気を表すのに完璧にデザインしつくされたレタリングから一回りした感じがします。
そう思うと、有名人の広告に見られる手書きサインも、主役である商品だけでなくモデルの人物のパーソナリティーをも尊重し、親近感を醸し出すためなのかも知れません。
ちなみに冒頭で紹介したこちらの本も編著者の挨拶に手書きサインが添えられています。作り手の気持ちや責任感が伝わってくるではないですか。
これからもサイン入り広告同様、手書き文字探求も続けていきたいと思います。